イタリア北部の街トレントからおよそ20キロ東にアルプス・ドロミテ山岳地帯に小さな湖が2つある。この壁のようにそびえる山々に囲まれた集落カルドナツォ湖の近くに2つの自転車工房を見つけ移り住んだ記録である。
■出会い■
以前から訪ねたい工房のひとつがトレントの山奥にあった。そこで木製自転車をいつものように電車に積んでミラノ中央駅からベローナ、乗り換えてアルプスの山に囲まれた街トレント、さらにカルドナッツォという湖の畔の小さな村に行く汽車に自転車を積んでミラノから5時間15ユーロの旅。
リンゴとブドウ畑に囲まれて湖があり、キャンプ場が点在。山は高く高くそびえまるで壁のよう、さらに湖で泳げる。ジャンニの運転する車の窓から手を伸ばして好物のサクランボを食べた。そう、ここは有名なワインの産地でもある「トレンティーノ」と言う名前を聞いたことはないだろうか?
第一次大戦後オーストリア領だったここにはイタリアの都市とは少し違った空気が流れる。話されるイタリア語もアクセントがとっても不思議な感じで、人々の顔立ちもどこかドイツ人っぽい顔が多い。
国鉄カルドナッツォ駅舎
■2つの湖、2つの工房■
目的の工房に着きオーナーの兄弟、ダリオとジャンニに会い自転車談義が始まった。昼飯を一緒に食べ、仕事を取材しつつ連中の作るフレームを眺めて夕方に帰路に就こうかと思ったのだが、あまりのロケの良さにもう一泊する事にした。するとジャンニがウチに泊まっていけ!と言ってくれたので甘えて彼の家に泊まることに・・。
そこにはたくさんの抽象絵画が並び、決してキレイに整頓されてはいないのだけれどフレームと同じアートの臭いする住居。例えば家具で有名なカッシーナのチェアでもトルソと言う一風変わったシリーズが居間に置かれ、日本人デザイナー喜多俊之作のバタフライチェアがあったりした。彼は芸術、どちらかと言えば現代絵画に大変関心を持っている人間で彼らのフレームに描かれるグラフィックが彼のインスピレーションから生まれているのは確かだった。
ペゴレッティーの弟ジャンニの家に掛かる抽象画
木製自転車の設計図をジャンニに見せている最中に彼の友達2人が工房に入ってきた。「ピエトロ」と呼ばれるこの土地の方言を喋らない男ともうひとりはイタリア量販メーカー「ATALA」のエンジニアだった。ピエトロはこの近くにもう一つ自転車工房があってそこで4年ほど前に木製自転車を作っていたと言うので彼に案内してもらい工房へ向かう。
彼は山を軽自動車でグイグイ登り着いたところはなんと麻薬患者の更正施設だった。その工房はとても大きく4階建ての住居に100人が暮らし、うち20人が自転車制作に関わっているのだった。彼らの名は決して表には出ないがイタリアを代表する有名ブランドの下請けをしているのだ。工房にはカーボンのオートクレープ用の窯、塗装ブース、広い作業場を設けていてTIG溶接からロウ付けさらに接着工法まで対応するレパートリーの広さでビックリしてしまった。
更正施設の名は「サンパトリニャーノ」、600mの山の上に作られた工房ではジロやツールで活躍するプロチームに供給されるフレームをも作っていた。
つづく
Copyright (C) 2003 MASATERU YASUDA
Tutti i diritti riservati. All Rights Reserved.
無断転載およびコピーは固く禁止いたします